−ということは、自給自足は家族や世帯単位の牧歌的な田園生活という旧来のイメージとは異なりますね。資源効率をあげるためのアイデアはお持ちでしょうか?
4.新たなコミュニティで自給圏域をつくろう
senang
個人や世帯の単位で自給的生活が難しいのであれば、複数の家族や個人がコミュニティをつくる方法があります。
これまで、里山エリアでの生活は集落という地縁コミュニティが担っていました。集落には資源を保全したり活用したりするための規制や知恵がたくさんありました。しかし、山が使われなくなってきた現在、集落内部の取り決めは無効化しつつあります。なのに、意志決定システムは旧来のままで、時代にそぐわなくなってきました。
現代社会で自給を実現するためには、地縁型の集落に替わる新たなコミュニティが必要です。それは、同じ目的や考え方を持つ者によってつくられる目的縁コミュニティです。例えば、自給的生活を送ることを共通の目的として、薪を確保するために複数人が集まって集団で作業をする、遠方の都市部に住む人が里山の管理をマネージメントする、資源を得るために資金を投入する、燃料用の作物を栽培するために専門家がアドバイスするなどが考えられるでしょう。自給を目指す新たなコミュニティは、多様な人材の集合体であり、異業種の連携もあり、個々の意志を尊重することによって成り立つものだと考えています。
−持続的なプロジェクト・チームのようなイメージですね。そこに採算性が出てくると自給と循環をコアにした経済システム−ここには今の地域通貨のようなものを導入しても面白そうですが−本格的に地球の環境容量に根ざした実体経済をリンクさせることができそうです。
senang
一定の圏域をベースに、そのような目的縁コミュニティが立ち上がると面白いかもしれません。地縁や目的縁など多様なコミュニティ・レイヤーが複層的に折り重なっていることで、自給を実現する基礎体力を高めることになります。
現代社会では物流が発達していて、遠方の資源を気軽に入手できます。しかしこれは、石油を大量に使う輸送手段によって実現しています。石油文明と決別する過程においては、輸送にかかるコストや労力を極力排除することも重要なことです。
そう考えていくと、自給の最小規模が何となく見えてきませんか?多様な人材が存在し、里山や里海や中小都市がパーツとして含まれるくらいのエリア設定が、第一次の自給圏域となるのかもしれません。
地方行政の単位も、そんな自給圏域を結んだりブロック化したりして成り立たせることが現実的でしょう。資源的に自立したスモール・オートノミーというわけです。最近話題になっているコンパクト・シティも、このような圏域設定に基づいて構築すれば説得力のあるものになるでしょう。
そのうち、中央集権体制が実質的に崩れ、圏域の自給能力イコール行政の力量と判断される時代になるのかもしれませんね。そして、圏域単位で自給率が100%を超えたら、他の圏域へ効率よく輸送することを考えます。圏域それぞれには食糧やエネルギー源のストックヤードを設け、ハブとなる物流センターが新たな産業として発達することになるでしょう。
これからは、そんな自給圏域を国づくりの基本ユニットとすべきです。そして、自給圏域がクラスター(花やブドウなどの房)構造になって国全体を形成しているという構想を描いてみると、国土形成の力点が見えてくるのではないでしょうか。
−今のお話を伺っていると、地方分権と小さな自治がリンクしてその集合体が小さな政府を作ることができると感じました。また、自給という形で国土に手を入れることにより美しい景観が作られると同時に美しい景観を持つ里山や里海が兵站基地としての機能を持つようになりますね。ここでLandscape(風景)とLogistics(補給)が両立する国レベルの自給を仮に「Landscape
Logistics」と命名させていただきます。
5.生き方のキーワードは「持続する環境」
senang
面白いですね。自然景観を整えることと資源を生産することを両立させることには「環境容量」がキーポイントになります。自給圏域を基盤とした国づくりでも、環境容量に則ったマスタープランが重要です。国内の資源を野放図に収奪しないために、環境容量の範囲内で適正な資源配分を行うことが公共機関の役割になるでしょう。自給圏域単位でも、国単位でも、「持続する環境づくり」を新たなルールとして意識することが必要になってきます。
−今、ご指摘の「持続する環境」というのはとても重要だと思います。現時点でのすべての環境政策は「持続可能な成長」であり「持続可能な発展」です。この二つはどちらも人間を中心において貨幣経済の側からどこまで収奪するかという発想があります。つまり、破綻の引き伸ばしでしかない。
それを「持続する環境」に置き換えることは「まず自然を中心に置く」ことになり、その自然に見合った経済活動を行うという180度の転換になります。つまり、調達できる範囲での活動という上限がおかれますね。
senang
持続する環境づくりについて、少し視点を広げて考えてみましょう。自然との共生や共存という言葉はありますが、今の人間は自然や地球にとって益になる存在ではありません。共生どころか寄生であるとさえ言えます。共生や共存は、人間が積極的に環境を守って始めて成り立ちます。人間の活動によって地球が壊されないことが保障されなければなりません。
その方法の1つとして、自給圏域の外側のゾーンを人間の活動の影響を受けない場所として維持することが考えられます。そこは野生の場所であり、地球本来の場所というわけです。言い換えれば、地球上で人間が生活する場所をわきまえることでもあります。
−いわゆるサンクチュアリですね。動物保護区=野生の場所は動物の領域として人間の生活圏とはっきり線引きする。大賛成です。
senang
人間は地球の支配者ではありません。開発に明け暮れた20世紀は、そのことを忘れてしまったために、取り返しがつかないほど地球を壊してしまいました。人間が奢りを持たずに地球に住まわせてもらっていることを忘れないためにも、自給圏域以外は手つかずの場所として残しておくことが必要だと思います。
持続する環境を考えることは、自分の都合だけで物事を考えるのではなく、自分のこと以上に周囲に対して配慮することでもあります。周囲の環境がなければ、自己の生存すら成り立ちません。他者あっての自分です。自給を目指す思考と実践が、そんな精神論にもつながっていけばいいなと願っています。
−精神論というと実体がないものと思われがちですが、自給を真ん中に置く事で心身一如になり、強い意志と高い精神性の涵養につながるのではないでしょうか?
今、自給圏域についての実験的な試みを計画されているということで、それをとても楽しみにしています。概略についてお聞かせいただけますか?
6.自給テーマパークの試み
senang
ここでまた、理屈が立てば実行したい性分が頭をもたげつつあります。今年中くらいに自給圏域を立ち上げるための初歩的な試みを始めようかなと考えているところです。
まずは自給をテーマとした目的縁コミュニティの立ち上げです。現場で農業や山管理をしている人の他に、自給に興味を持っている人や問題意識の高い人などを募ります。勿論、都市部に住む人も大歓迎です。それぞれが役割分担をして、資源の手入れ・ストック・分配を行います。食糧の自給は、現行の農業のスタイルを少し変えることで比較的実現しやすいと思います。
ただし、現代の農業は機械がなければ耕作ができません。石油がなければ農業が成り立たないというわけです。それでは本末転倒なので、食糧確保より先にエネルギーの確保を優先しなければならないという考えに至りました。
−エネルギーについてはどのようなものを使用される予定ですか?
senang
最近は、EDF(エコディーゼル燃料)100%で動く車が開発されています。サトウキビなどからエタノールを精製してガソリンに混ぜることも実用化されつつあります。そんなバイオマスエネルギーが本格化してきた一方で、砂糖と燃料の取り合いが起こるなど新たな問題も生じています。
日本は米づくりが盛んな国です。そして、米から酒を醸造すること、つまりアルコールを精製する技術に長けています。杜氏さんによると、米1升に対して純度95%のエタノールが4合(720g)精製できるとのことです。そこで、米をたくさんつくってアルコールを醸造し、これを燃料にできないかと考えました。アルコールを取るなら、米の他にキクイモなども有望ですね。草丈が高いから、ある程度まで育てば草刈りをしなくてもよくなります。また、景観を考えると、ナタネやヒマワリなども面白いかもしれません。
−ここで、前回のインタビューでお話いただいた「限界集落は未来へのフロンティア!」という構想が活きてくるのですね。
senang
そうなんです。そんな試みを実践する場所として、僕は耕作放棄地が大量に出ている限界集落に着目しています。限界集落で谷を丸ごと借りて徹底的に手入れをして、減反政策には応じず、政策は後からついてこいという勢いで米をつくりまくる。
−温暖化が進むと、現在の良食味早場米産地である九州や四国などの地域が稲作適地ではなくなり、北へ、具体的に言うと北海道にシフトするという調査がありますね。先の自民党総裁選では麻生外務大臣が北海道遊説で言及しておられました。そうなると、食糧米からエネルギー米への転換もぐっと現実味が増してきます。食味よりも収量重視で管轄も農水省と経産省が連携して、グリーンエネルギーを生産するというシナリオもありそうです。
他にはどのようなことを考えておられますか?
senang
可能であれば手入れ時に焼畑をしても良いですね。焼畑からは様々なことが学べますし、火の扱いを通して人間と自然との関係を再認識することもできます。縄文の技法を今に復興させながら、22世紀的ライフスタイルのモデルケースとして展開していく予定です。あとは風と水などから効率良く電気を発生させる発電機が開発できれば万全です。技術の進展を待つと同時に、電力を浪費しない暮らしも重要ですね。
−22世紀的ライフスタイル、ジュール・ヴェルヌのような予見力と、自然と人間の関係を見直すルネッサンスのようですね!未来に生きる縄文人のたましいを感じます。
senang
僕は未来は決して八方塞がりではないと考えています。誰にでもその人にだけできることがあります。僕は常に楽観的で実行力がある法螺吹きが時代を拓くんじゃないかな、と思っています。自給テーマパークが「楽しそうだな」と思われた方は、ぜひ一緒に考えてみませんか?
−自給テーマパークはいいですね。面白いことをトライアル&エラーで試せるのは今しかないと思います。やっぱり、地球と対話することって大切ですよね。足元に未来がある。そう思うと元気が出ます。そして「誰かがやる仕事はだれもやらない仕事」という言葉を思い出しました。本日は、厳しいけれど楽しいお話をどうもありがとうございました。